明けがたの夢
「恋愛小説を書いて」とリクエストがあり、久しぶりに 書き始めた。いやー!ほんとは「桜−早すぎる春−」を 一年以上放置しているので、それどころじゃないのだが!! そして私の書く「恋愛小説」は「恋愛小説」にならない(涙 10代の6年間、私は2冊の週刊…
一昨年の12月、そこそこ盛り上がったところで、それ以降 小説の連載が止まっている。 一番の原因は体調。昨年一月から三月まで自動車学校に 週一通っていた。たいていまる一日つぶしていた。 もちろん、いまさら自動車の免許を取ろうとしたのではない。 誕生…
ということで。sapさんからのご提案もありましたので 「ここ夏のブログ」を「ここ夏文庫」に改名いたしました。 どうも「はてな」じゃらちあかん、と思い、創作物は全部 FC2にコピーしたのですが、なんですかねぇ…「はてな」に慣れると 他のブログの使いにく…
カテゴリー「明けがたの夢」は自作小説です。3月に病気が悪化 してから、初の(爆)恋愛小説「桜、早すぎる春」の記載が 滞っています。 しかしストーリーはだいぶ先まで組立っていました。 主要人物がもう一人登場する予定ですし、既出のキャラたちも 既に…
「だいじょうぶだよね?」 不安げに彼女は問うた。 「だいじょうぶだよ」 彼女の瞳をチラっと見てから彼は答えた。 「だいじょうぶだよ。 君が僕のことを呼ばない限りね」 彼女は閉じていた瞳をゆっくり開く。 ココロから彼を抹消する。それが自然なのだ。 …
ビールが前に置かれると善文はそれをごくごくと飲んだ。 詩織も真似してごくごくと飲んだ。やはり喉ごしが美味しい のは一杯目だけだな、と詩織は思う。 善文はグラスを置くと、その長い足を組んだ。 「佐倉さん、彼氏います?」 「想像に任せます」 これは…
しばらくそうしていると、善文は両腕をぐーっと上げて 体を伸ばしてから、ソファーに座り直した。 「なんか、すみません。悲しい話題になっちゃいましたね。 本当はあなたと楽しい話がしたかったのに」 詩織もはっとした。シロクマの話ときいて、熱くなりす…
「シロクマは雑食なんです」 「クマ類はほとんどそうですよね?」 善文はまた綺麗な指を顎にあてて撫で始めた。詩織は コクンとうなずいて続けた。 「さっきも話したように、夏の間は狩りをするんです。 アザラシとかセイウチとか。でも今はセイウチは難しい…
「地球温暖化かあ」 豆乳リゾットを皿に取り分けながら、善文は呟いた。 「僕は何も知らないなあ。考えたこともない。そんなふうに 大きなテーマをもって番組を企画したこともない。 はい」 一枚目の皿を詩織に回すと、善文は二枚目の皿にも リゾットを盛っ…
詩織は今日はその問いに素直に答えた。アフリカに 行ったこと。東都大学の獣医大学院に通っていること。 それはこれから日丸テレビが作ろうとしている番組に なんの影響もないからだ。アフリカが旱魃に苦しんで いること、北極の氷河が溶けていること。そん…
「ふうん、共食いですか」 善文は綺麗な指で顎をさすりながら呟いた。 「それが食糧難のためにされるとしたら、悲劇ですね」 「ただの食糧難じゃないんです。本来の餌のセイウチとか アザラシとか、そういう動物は近くに沢山居るんです」 「動けなくなったか…
四人はかわるがわるお互いの顔を見た。彩は都会派の おしゃれなお姉さんだし、雅は良い所のおぼっちゃまに 見える。大介は落ち着いた大人だし、詩織はよく年齢 不詳だと言われる。詩織以外は獣相手とは言え医者な わけで、どこかくだけた感のある詩織とは雰…
三人の学生たちは資料室の中央にある大きな机の上に 北極圏の地図を広げていた。彩は机の上に身を乗り出して 食い入るように地図を見ている。 詩織と大介は学生たちから少し離れた場所に座って、 紅茶を飲み始めた。京が 「あれ?結城さん。俺達の分はないん…
部屋には高橋京という大学院2年生と、同じく2年の 高木彩と一年生の柏木雅が居た。三人とも既に顔なじみ だ。このうち京と雅が大介と同じようにシロクマの生態を 追っかけており、彩はジャイアントパンダが専門だ。 しかし彩も、ここ数年になって急に数を…
詩織がその研究室を訪ねたのは三回目だった。 東都大学獣医学部大学院、野生動物科山口准教授室。 大学や動物を飼育している教室は東京郊外に校舎を持って いたが、山口准教授室は水道橋に近い東京の真ん中の ビルの12階にあった。 ビル全体が清潔で明るく、…
「そんなにCGやりたければ、あっちでMGMかユニバース・ ピクチャーズに入れば良かったのに」 「そういうおとぎ噺系じゃなくて、歴史の復元みたいな ものをやりたいの!」 「そんな大きな映画会社じゃ入るのも大変でしょうしね」 詩織はしれっと言ってみた。…
あ、この子、私に嫉妬してる。詩織は単純にそう思った。 相手の剣幕にも驚くし、言葉が見付からない。 どういう関係、と尋ねられて答えられるような、大層な 関係でもない。だって会って2回目なのだから。 「この人は今日のシンポジウムに来てて」 「ヨシフ…
「このドクロですか?」 善文は指輪を指から抜くかのように上から撫でて、 「これ、お守りです」 とあっさり答えた。 「お守り?」 詩織は納得できない。左手薬指にドクロでお守りなんて 話は聞いたこともない。 「僕、去年、3回も事故っちゃったんですよ」…
詩織があんぐりと口を開けて驚いていると、善文は笑った。 公家のように「ふふふっ」と。詩織も笑った。この人、 前世は絶対に公家だよ。 その時、善文の携帯がピリリリっと鳴った。 「おっと」 善文はパンツのポケットに入れてあった携帯を取り出す。 「は…
「ないわけじゃありません」 善文は相変わらず足をぶらぶらさせながら言った。 「でも僕、デジタル制作担当なんです。何かひとつを 自分のテーマにする、ってことがないんですよ」 その目は少し寂しそうだった。 「デジタル制作、って、つまりハイビジョンで…
そんな二人のあいだに店員が割って入った。 「おからコロッケとビールでございます」 善文はおからコロッケの皿を受け取り、詩織は自分の前に ビールグラスが置かれるのを待った。 「おからコロッケ」 善文が皿を詩織の近くに置いた。 「食べてみてください…
「でもそうですよね。NHKが環境問題を取り上げるのは ある意味、義務だと思いますよ」 詩織は残りのビールを空にしながら言った。 「義務?」 「そうです、義務。NHKは災害時とか、絶対に特番で 状況報告をする義務がありますよね。それと同じだと 思うんで…
うふふ。詩織はつい笑ってしまった。 「今までそんなふうに言われたことありません」 それに善文が詩織のそんなところを気に入っていたとは 想像もしなかった。詩織もビールに手を伸ばした。 「でも、そう言えば」 ビールグラスを口元まで運んでおいて、詩織…
ドキっ。詩織は言葉の意味をとらえ損ねた。なんだろう。 どういう意味かしら。聞いてみたい。でも、なんだか怖い。 詩織は聞こえない振り、関係ないという振りをしたまま グラスを傾けていた。 「ふふっ」 善文はそんな詩織を見ながら頬杖を突いて、組んだ足…
え? 詩織は驚いた。あのときの誤解を謝ってもらおうとは 今さら全然思っていない。それよりも、詩織が偶然にで も善文の番組を成田空港で見たことを告白しなければ ならないのか、そのことで頭が混乱した。 善文は視線をすっとビールグラスに移した。 「や…
グラスにビールと泡は7対3。詩織はこれは譲れない。 この店の泡はやや少なめだが、合格点としよう。そんな ことを考えながら2口目のビールを楽しもうとしたとき、 善文がふふっと笑った。詩織はグラスに2口目をつけ ず、善文を見ながら首をかしげた。善文…
少し歩くと善文は通りの右側にある店を指差した。 「あそこです」 店は地下にあるようだが、メニューの看板が外に立って いた。洋風居酒屋という感じだろうか。 善文が先に階段を降り、店のドアを開けた。手を胸の 高さで折り、詩織に先に店に入るように促し…
「こっちです」 善文はバス通りまで出ると渋谷C.C.Lemonホール (旧渋谷公会堂)の角を右に曲った。なだらかな坂を 下り、NHK放送センターの西門へ通じる道にぶつかっ た。東の門は見学者がほとんどで、この西門がNHK 各社員の通用口であり、出演者の入口で…
詩織はホール中央辺りのもとの席に戻り、最後のパネル ディスカッションを聞いた。地上デジタルとワンセグ。 これらはどう動くのか。携帯電話は世界規模のサービス を実現できるか。 聞いていて、詩織は何でも出来るように思った。技術は 先へ先へと進んでい…
それから善文は詩織のほうをずっと見ながら歩いてきた。 詩織は動けなくなってしまった。誰かに「すみません」と 声をかけられて、詩織は自動販売機の前を譲った。 「ひさしぶりですね」 最初に声をかけたのは善文だった。 「地デジシンポジウム、いらしてた…