桜、早すぎる春 -19-

部屋には高橋京という大学院2年生と、同じく2年の
高木彩と一年生の柏木雅が居た。三人とも既に顔なじみ
だ。このうち京と雅が大介と同じようにシロクマの生態を
追っかけており、彩はジャイアントパンダが専門だ。
しかし彩も、ここ数年になって急に数を減らしたとされる
シロクマの生存には大きな関心を抱いていた。共通して
全員が、それが人類による「地球温暖化による被害」で
あることに憤りを感じていた。


詩織は昨年の夏、ロケでアフリカに行った。番組は10分
程度のもので、地球温暖化がもたらした影響を視覚的に
訴える内容のものとされた。
詩織は「地球温暖化」と聞いてもピンとこずに過ごしていた。
確かにだんだん、夏が暑くなってきたと感じている。
しかし日本の食事情を圧迫するような冷夏もあり、事態の
深刻さが分からない。冷房の設定温度を少し上げるとか
水を流しっ放しにしないとか、そんな簡単なもので効果は
得られるのだと思っていた。


しかし現地に立ったとき、詩織は言葉を失った。あふれる
涙を止めることができなかった。足がガクガクと振るえ、
これが人間の犯した罪なのだと実感した。


詩織が訪れたのはアフリカのブルキナファソという国。
旱魃に苦しむ国で、日本も植林の援助などを行っている。
ブルキナファソのはじっこ、大陸中央寄りにサヘル地域が
ある。そこで詩織が見たものは、カラカラに乾いて、
土がひからびたミイラのようにめくれ上がった大地。
そこが「沼」だと教えられた。詩織の知る「沼」は、
こんなものではない。
日本から行った局のスタッフは全員、その場で動けなく
なった。同行した日本大使は言った。
「この状況を日本のみんなに伝えてください。先進国の
自分勝手な生活が、地球を壊している現実を」



それから日丸テレビでも地球温暖化、環境問題を積極的に
取り上げていこうということになった。既に世界各地で
日本からの応援組織が活動を始めていることが分かった。
日丸テレビはこれらと接触し、地球が抱えている、いいや
人類が犯している罪の取材を始めた。


詩織も初めはそのままサヘル地域の砂漠化について取材を
していたのだが、あるとき、地球温暖化により絶滅に
追い込まれている動植物、魚がいることを知った。
その中でも詩織の目にとまったのは、北極圏の氷が溶け
たことにより、棲む場所をなくしているシロクマだった。
シロクマが絶滅危惧種に指定されたのは最近のことだ。
北極の氷がいきなり半分に溶けたことで、いっきに減少
したと言われている。そしてここ、東都大学獣医大学院が
野生のシロクマの生態を調べ、なんとか絶滅から救おう
としていることを知った。

この物語はフィクションです。実在する人物・組織・団体とは関係ありません