小さい「コ」が付いて欲しい

散々「うちの父は科学者」「田舎で悠悠自適」と書いてきたが
昨年末に状況は大きく変わった。
「もう働きたくない」という相変わらずマイペースな理由で
仕事を辞め、毎日ネットゲームに興じていた父のところへ
就職の話が舞い込んだのは、仕事を辞めてまだ数ヶ月
の秋だった。


それは東京の知人から、ドライブ中の携帯電話へ。
偶然、私も父の運転する車に乗り合わせていた。
車を止めて仕事の勧誘を受けた父は、寝耳に水というか
一人車を降りてりんご畑を奥の方へ入っていき、
長々と電話していた。
戻ってきて言うには「東京の会社へ役員として来ないか」。
母は特に何も言わなかったけど、それはとてもとても
現実味がうすく、父は断るつもりだったらしい。


私の知る限り、父はそれまで仕事では恵まれていない。
新発見をして全国各紙のトップ記事を飾ったというのに、
その研究は「仕事」としては続けられなかった。
会社でいうところの部長に当たる人が、それを許さなかった。
上長は何度か変わったはずだが、誰もがリーダー能力に欠く人で
父は自分の研究もできず、ずっとつまらない想いをしてきた。


自分の境遇とダブったせいもあるかもしれないが、私は
研究結果を認められ、それに見合う待遇を受けられるのは
父にとって、とても良い経験(思い出に近い?)だと
思った。幸い退職して間もなかったので社会ボケしてなかった
し、ありがたいことに健康体である。老後の余暇を楽しむ
だけには未だ未だ早いような気がした。


父は「断る」と言っていたが、私は受けることを薦めた。
まぁ父が本気になったのは私の薦めのせいではないと思うが。


結果として、慣れない会社生活、東京での一人暮らしを
強いられている父。絶対に自炊しない娘のために
週に一度は食事を作りに出かけなければならないし(爆)
母なんかは、冗談だろうと思っていたのに本当に就職した
ので、「なんだそりゃ?!」と思っているらしい。
もしかしたら、もう田舎でゆっくりしたかったのかな…
と思うと、父に対して若干の罪悪感も感じたりする。


私は自分でも嫌になるくらい上昇志向が強い。
それを父にも強いたような気がしているのだ。
父の研究が、父自らの手によって商品化されようとしている。
それは「やり甲斐」なんじゃないか、なんて。
他人に「認められる」ということは、すごい幸運なんじゃ
ないか、って。


父よ。私はすごく応援しているが、本当は田舎でのんびり
したいのだったら、いつでも辞めてくれ。
でも、これからも時々は飯を食わせてくれ(それかよ!Σ ̄□ ̄