UFOキャッチャー

これは私の友人χの実話をもとに再構成した現在進行形の物語です


短い恋に終止符を打ち、涙に明け暮れた日々から一年。
友人χは寂しさを感じながらも仕事に活路を見出していた。


そんなとき。。
「χさん、このキャラクター好きなんですって?
 僕、UFOキャッチャー得意なんです。差し上げますよ」
そう言ってぬいぐるみを手に、笑顔を見せた青年。


隣の部署に派遣として入社してきた通称ギャンブラー。
背が高く、日焼けした顔に真っ白な歯が映える爽やかな青年。


「あ、ありがとう…」
たいした会話もなく受け取った友人χであったが、それ以来、
彼の笑顔は友人χにとって会社での唯一の癒しとなった。


笑顔が見られれば、それで満足のはずだった。


冬の足音が聞こえてくる頃、この冬はどう過ごす?
同僚同士の話題は恋愛関係に。
「χは最近、どうなの?」
その問いに深い意味もなく
「私はギャンブラーの笑顔が好きだな…」


ああ、恋とはしょせん思いこみ・勘違い。
自ら口にしてしまったその日から、友人χは自分でも止めることが
できないギャンブラーへの想いが、日ごと高まっていくのを感じた。


忘年会。
友人χは勇気を出してギャンブラーの隣に席を取った。
「ギャンブラーさんはUFOキャッチャー、得意なんですか?」
ギャンブラーは気さくに応対する。
「ゲームセンターによく行くんですよ。UFOキャッチャーだけじゃなくて
 なんでも得意ですよ。χさんは?ゲームしますか?」
「するする!UFOキャッチャー大好き!苦手だけど…」


ゲームセンターなど行きもしない友人χは、ギャンブラーの笑顔に
つい嘘をついた。
「ついお金使いすぎちゃうこともあるんですよ」
「あ、だからギャンブラーなんですか?」
二人の会話は弾む。彼の笑顔がひときわまぶしい。


「じゃあ今度一緒にゲーセン、行きましょうよ」
彼の一言に、友人χは長かった冬の終わりを感じたのだった。


(続)