【棋聖戦・梅田望夫氏観戦記】と将棋嫌い少女

先日、梅田さんの【棋聖戦梅田望夫氏観戦記】を読んだことを
書いたら、思いがけず遠山棋士のブログから当ブログにリンクを
貼って頂きました。
遠山雄亮のファニースペース「梅田さんの記事、その他盛り沢山」
http://chama258.seesaa.net/article/100387696.html
お陰様で普段の20倍のアクセスがあり爆笑しております
(人気の方からリンクをいただくと桁違いだな、という意味で)
自称「将棋嫌い」が、ずいぶん勝手なことを書いているので
扱って頂いて申し訳ないなと思います。読んで不愉快な思いを
された方、ごめんなさい。


それにしても、梅田さんのあのコラムは本当に面白かったです。
なぜだろう?と本気で自分に問いたい気持ちになりました。
もちろん、一にも二にも梅田さんの文才に拠るものだと思いますが
二には梅田さんの「将棋大好き」が+αされているでしょう。
三くらいにネットでのリアルタイム・コラムだったことが
挙げられるでしょうか。


「おもしろい」と感じた箇所を自分なりに考えました。
また将棋に暗い者が勝手なことを書きますよ(笑)
本人のメモだということで、大目に見るかここで逃げるか、
あるいは忘れるかしてください。


長文になります。
あとリアルで私を知っている人は既に当エントリーの
タイトルで「誰が少女だ!!」と叫んでいることでしょうが
無視して始めます。


将棋とわたし
将棋を最後に指したのは恐らく小学生。盤に駒は並べられます。
王と玉の区別もつきます。「あの人は香車みたいだからなー」
とか言います。
ではなぜ将棋が嫌いなのか。


「読む」のがいやなのです。頭がパンクしそうになるので。
頭の中で樹形図がどんどん伸びていきます。一手打つのに
たぶん自分じゃ覚えきれないほどのパターンを想像するでしょう。
だけど、絶対にそんなもんじゃ相手の駒は読めない。
そうすると自分の駒も決められない。 うぎゃー (`□´;)


でもそこが将棋の醍醐味なのでは?と思うのです。
それがいやな私は、たぶん将棋には向いてないでしょう。


羽生さん
いつだったか、何気なく点けたテレビで羽生さんのドキュメンタリー
をやっていました。それが「プロフェッショナル 仕事の流儀」
だったのかどうかは分かりません。
羽生さんは歳も近いので(ここでネットの人にもタイトルに嘘が
含まれていることがバレる)、若いうちに大きなタイトルを
獲得したということで印象に強く残っています。


そのテレビで、一局やるのに何時間もかかるのだということを
知りました。駒を打つのに、何十分も考えるのを知りました。
ぅわ!やっぱりプロはあの樹形図を完成させるまで考え抜くんだ?
番組ではその対局が夜まで及び、夕食タイムに入るところも
追っていました。羽生さんには行きつけの店があり、席も決まって
おり、オーダーするメニューも決まっていて、ただ一人で
やってきては一言もしゃべらず食べて戻るのだと。
漠然と見ていただけだけど、こりゃすごいな、と思いました。


のちに、梅田さんのブログで羽生さんの名言がよく引用されるので
羽生さんもやはり現代の人なんだという印象がプラスされました。


梅田さん
基本的に梅田ファンです。認めます。
今回のコラムも梅田さんが書いたのだから読みました。
すみません。


梅田さんの文章は、
・ちょうどいい箇所で段落がある
・伝えたい内容に執拗でない すっきりしている
そして
・先を知りたくなるような言葉を選んでいる


それを一番感じたのは「ウェブ時代をゆく」の目次。
たとえば『高速道路を猛スピードで走る少女』。
「それは誰?!」


ちなみにこの章は割と将棋に例を取って書かれています。
疾走しているのも将棋をしている少女だし、そもそも
「高速道路」は羽生さんが言い出した言葉のはず。


■【棋聖戦・梅田望夫氏観戦記】
ここからは一話ずつの感想メモ。


(1)桂の佐藤棋聖、銀の羽生挑戦者


いくら梅田ファンでも将棋のコラムは私にはキビシイ。

将棋を指すのは弱くとも、『観て楽しむ』ことは十分できます。例えばプロ野球を見る時。『今のは振っちゃダメなんだよ!』とか『それくらい捕れよ!』。サッカーを見る時。『そこじゃないよ! 今、右サイドが空いていたじゃんか!』と言いながら見ますよね。それと同じことを将棋でもやってもらいたいのです。『それくらい捕れよ!』と言いはしますが、実際に自分がやれと言われたら絶対にできません。 『しっかり決めろよ!』も同じで自分では決められません。将棋もそんなふうに無責任に楽しんでほしい」


この言葉は、将棋界の若きリーダー、渡辺明竜王の言葉である(「頭脳勝負」ちくま新書)。

それはたぶん盤面を見て、ある程度手の意味が分かる人ができること
だと思います。私のように「手の意味は考えたくない」人には無理。


しかし今回のコラムは、そんな将棋嫌いをフォローするかのように

羽生挑戦者は▲7六歩と角道をあける。カメラのフラッシュがいっせいにたかれる。佐藤棋聖は少考して△8四歩。


あっ、今日は矢倉になるのかあ、と思った。


しかし羽生挑戦者は、▲6八銀で矢倉にするのではなく▲2六歩と飛車先を突いた。「矢倉にはしませんよ。角換わりの将棋にしましょう」


最初の3手には、そういう意味がこもっている。かくして今日は、後手一手損角換わりの将棋になった。

手の意味まで教えてくれました。これは大きいです。
この解説のおかげで「この勝負はどうなるの?」と関心を持ちました。
もちろん次のコラムに引き継がれるわけですが、この時点では
「羽生棋士が自分の将棋に持っていきたがっている」と感じます。
羽生棋士の作戦は成功するの?


(2)羽生挑戦者「秘策」に誘導か


ここで羽生棋士のエピソードが添えられました。

羽生さんは私に、意外なことを言ったことがあるのだ。


「実は将棋には闘争心はあまり必要ないと思っているんです。戦って相手を打ち負かそうなんて気持ちは、全然必要ないんですよ」


私は「なぜですか」と羽生さんに問うたのだが、将棋というものは、お互いに1手ずつ指すもので、1手指した瞬間に自分の選択権は無くなる、と羽生さんは答えたのだ。
「もう何もできなくなってしまう。何でもやってください、どうぞご自由にっていう感じになるんですよ。他力思考。他力本願だというのかな…」

なぬ?
確かに、物理的には相手が指すまでは自分にできることは何も無い。
でも「こう打って欲しい」というのが私の場合にはあって、
相手の手をヒヤヒヤしながら待ち、ちょっとしたストレスでした。
今おもえば、それは私の中の樹形図が二本くらいしか出来てないから。
きっと羽生棋士は、完成した樹形図の中のどの一本を選ぶのですか?
お任せしますよ、という気分なのでしょうね?


このコラムには下記のような戦闘風景描写がありました。

特に羽生挑戦者は29手目の▲2四飛に17分考えていたのだが、最初の7分が過ぎたところで「ひやーっ」という声を出した。そしてその8分後、佐藤棋聖が席を立っている間に「うーん」というかなり大きな声を出した。

ええ?!
なぜ「7分が過ぎたところ」なの?!


この7分という時間、羽生棋士は樹形図を練り直していて、
とんでもない結末を見てしまったのでしょうか?
あるいは頭が真っ白になってしまったのでしょうか?
羽生棋士にいったい何が起こっているのか、想像が膨らみました。
そして対戦相手が留守の間に「うーん」とは?
梅田さん、とんでもない瞬間をキャッチ & リリースw


それから梅田さんは

控室に戻ってみると、ここまでの局面は、3年前の平成17年5月12日の王位戦挑戦者決定リーグ白組で、先手山崎隆之六段、後手佐藤康光棋聖の対局と同じ局面だ、ということが話題になっていた。

ちょい待てw
棋士棋譜を幾つも覚えていると聞くけど、やっぱり以前の将棋と
同じかどうか、って問題ですか?というか、同じだと分かるのが
素人には面白すぎるんですが(爆)
そしてもちろん、素人でも気になります。

この後手一手損角換わり戦法とは、日進月歩、いや秒進分歩で進化が続いている「現代将棋の最新戦法」の一つである。にもかかわらず、この3年間、山崎−佐藤戦以来、一度も現れていない局面に、どうも羽生挑戦者が誘導している。
(中略)
果たしていま対局者の2人は、この山崎−佐藤戦のあとをたどっているという意識を持ちながら、この将棋を指しているのだろうか。

そうですよ。知らないで打ってるんですか?分かっているとしたら
なぜ羽生棋士は17分もうなっていたのでしょうか?
もうここまでくると、興味津々。

普通の人は、将棋の勝負どころは終盤と考えるでしょう。最後に詰む、詰まないという局面です。まあ、そこで間違えれば負けですからそうなんですが。
しかし、プロ同士はわずかな差で戦っていて、どこで勝負がつくかがなかなか分からない。

佐藤棋士の言葉が引用されました。
うんうん、そうでしょうな。一瞬の気も抜けないでしょうな。
などと、こちらは気楽にコラムを読んでいるくせに考えますw


それを立証するかのように、梅田さんが見たこんな光景が。

昼食休憩15分前に、35分考えた佐藤棋聖は△4五銀(38手目)と出た。この手も相変わらず山崎−佐藤戦を踏襲している。羽生挑戦者はこの手を見て「うん、うん」と大きくうなずいた。と同時に、佐藤棋聖は、激しく咳き込み、トイレに立った。


なんという密度の濃い時間、息詰まる空間なのだろう。


(中略)


少し遅れて佐藤棋聖も席を立ち、自室に戻ろうとしたのだが、どうやら間違った階段をのぼったらしく、頭を叩きながら階段をおり、少しよろめいて旅館の廊下壁に身体がぶつかった。極度の緊張状態にあるのに違いない。

ナイスエピソード!!
対局がすごい緊張下にあることがガンガン伝わってきます。
今回が名局であるかどうかなんて関係ありません。すごい戦いが
行われている事実だけで、もう充分わくわくです。


(3)未踏領域に突入、「均衡の美」をタイトル保持者が解説

昼食休憩後まもなく羽生挑戦者が指した▲2七角(39手目)で、この将棋は完全に未踏領域に入った。

を!
ついに新しい棋譜登場ですか?というか発明ですか?w


ここで

森内俊之名人を除くタイトル保持者のすべて(対局者2人と竜王と王位であわせて6冠)が、ここに集うことになった。

控室の検討は、将棋盤の前にどっかりと坐った饒舌な渡辺竜王が、中心になっている。


△3六歩(40手目)、▲1五歩、△2五歩、▲1六飛、△2三馬、▲2四歩、△1二馬(46手目)までは、「あんまり考えることないでしょう、こう進みますよ」という渡辺竜王の予想通りにすらすらと進んでいったのだが、47手目の羽生挑戦者の▲7七銀がテレビモニターに映ったときに「おーっ」と、控室が盛り上がった。


ここで自陣を整備して(壁銀を解消して)、相手に手を渡す羽生挑戦者の勝負術に感嘆の声が上がったのである。


ここで佐藤棋聖が長考に入ったのだが、次の一手は42分後に指された。


「1秒も考えなかった手だよー」と渡辺竜王が叫んだ。△4二玉である。


「2四と3四に歩が垂らしてあるところに玉が近づいていくなんて、考えられない手だな。佐藤流ですかねえ。羽生さんも1秒も考えてなかったんじゃないかなあ」(渡辺竜王

楽しそうじゃないですか。。。
しかも「1秒も考えなかった手だよー」って、佐藤棋士
とんでもない手に出たみたいじゃないですか。羽生棋士、もしかして
ピンチ?


しかし

戦いが起こってから自陣を整備したところが、達人同士の戦いを思わせると同時に、両者の呼吸が合っていることを感じます。いまは△5二金(50手目)の局面ですが、動くと均衡が崩れるタイプの将棋だと思います。両者の棋風から考えると、佐藤棋聖が動く可能性が高いのではないでしょうか。実力が問われる局面ですね。現在の局面は、均衡が取れた互角の形勢ですね。

という遠山棋士のコメントが添えられました。
将棋って、やっぱり分からない!(悲鳴)


(4)「孤高の脳」が生む無限の広がり


予定外のコラムがアップされました。これは初めに梅田さんご本人が
宣言されていたので驚きませんでした。というのは嘘で、
予定外が上がったのには驚きました。

私はいつも、一局の「無限の広がり」を書き尽くした本の存在を夢想する。一局の対局を通して、2人の対局者が脳の中で考えたすべてを書きおろしたら、どんなものになるのだろう。


「百冊くらいの、百科事典みたいに分厚いものになるでしょうか」


私は佐藤棋聖に問うたことがあるのだが、


「そうでしょうね。そのくらいにはなるのでしょうね」


いとも簡単に佐藤棋聖は答えた。

それは私が思うところの樹形図を、駒が動くたびに練り直す棋士
頭の中で起こっていることを文字にするということですか?
だとしたら、それは百科事典100冊はアリかもしれませんね。
羽生棋士の7分の「ひやーっ」は2冊くらいですか?


というか、面白い発想するんですね、梅田さん?


(5)「至福の時間」終演、勝因はやはり佐藤棋聖の「馬」


さて。なかなか上がらなかった(5)。
どうしたんだろう?と、何度かブラウザをリロードしました(笑)
そしたら梅田さんは、至福の時間を共有されてたそうです。
それは前回書いたので割愛。


ところで私が「なんだ、プロの棋士も出たとこ勝負じゃん」などと
暴言を吐いたのは下記の記述より。

「わからないですね」


「ちょっとわからないけれど、やってみたんですよね」


「有効な手がないんですよね」


「難しいですね」


「本当にそうですね、難しいですよね」


「ここ、どう指していいか、迷いましたねえ」


「受けの形が見えなかったんですよね」


「桂をここに打つのでは、おかしいですよね」


「自玉の耐久力の計算ができなかったんですよね」


「自信はなかったですね」……。


二人の感想戦は、ただただ、こんな言葉が連なったものだった。

感想戦というものの存在すら知らなかった私です。。
でも、あの瞬間、相手が何を考えてたのか聞けるわけですね。
それは面白い!自分はどこまで読まれて、どこで術中に
はまったのだろう?
しかしお二人のこの会話を読むと、お互いこの手で相手を
崩せる!と考えて打っていたわけではないのですね?
先のコラムで紹介されていた

しかし、プロ同士はわずかな差で戦っていて、どこで勝負がつくかがなかなか分からない。

は本当なのだと思いました。


棋聖戦観戦記に若干の補足をしておきます。


これは産経のサイトではなく、梅田さんのブログ
「My Life Between Silicon Valley and Japan」に追記されたものです。

観戦記(2)の4ページ目で、
果たしていま対局者の2人は、この山崎−佐藤戦のあとをたどっているという意識を持ちながら、この将棋を指しているのだろうか。

(中略)


佐藤棋聖感想戦で「この将棋は一度指してるんですよね」と言っていたから、佐藤棋聖が「山崎−佐藤戦」を意識していたというのは、感想戦の時点でわかった(がそれを当日書く気力と時間がなかった)。


そして、すべての原稿を午後10時少し前に書き終えて、約一時間遅れで、打ち上げの会場に着いた。「昨日は佐藤さんのお隣でしたから、羽生さんのお隣へどうぞ」と関係者に促されて、席に着いた。しばらく休んだあと、じつは羽生さんにこの質問をしてみたのだ。


羽生さんは当然でしょうという表情で、三年前の山崎−佐藤戦の内容を意識していたと言い、「山崎くんの▲1五歩(39手目)が悪手でしたからね、はい」とのことだった。

そうです、素人でも気になるところです。
17分も考え込んでいたのだから意識してなかったんじゃないか?と
思ってしまうところです。
ところがお二人とも承知していたんですね。
そうなんだー
すると今度は「じゃあ何故17分も、何を考えていたんですか?」と
問いたくなりますね♪


それから、打ち上げの席で梅田さんは羽生棋士に、これと同じ局面が
三年も現れなかったことを問うたそうです。

プロの将棋と言っても、いろいろあわせても一年にせいぜい2,000局くらいしかありませんから、そんなに同じ局面はあらわれないんですよ


「2,000局くらいしか・・・・」ですか。羽生さんの頭の中はどうなっているんでしょうね、本当に。

そう書かれていますがね?
自称将棋嫌いには、梅田さんの(2)でさらりと書かれた

私のPCには、将棋年鑑のデータが1万4567局入っているのだが、

ここで驚きですよ?
将棋が好きな人にとって、棋譜はそれほど重要なんですね。


それから翌日のエピソードで、渡辺棋士が「1秒も考えなかった手だよー」
についての佐藤棋士のコメント。

「へえ。渡辺くんがいろいろ好きなこと言ってましたか。そうでしょうね。はっはっは。たしかに、△4二玉は、普通は考えない手かもしれませんね。でもここで金に紐をつけておかないと、あと戦えないと思ったもので・・・」


とおっしゃった。渡辺竜王が好きなことを控え室でしゃべっていたという話について、心から嬉しそうにしている佐藤さんが印象的だった。

これを読んで思ったこと。
それは梅田さんの(5)のコラムにあがっていた

佐藤棋聖と羽生挑戦者の感想戦は、2人にとってきっと至福の時間なのだろう。


傍で見ていて、私は本当にそう思った。


そこには勝者も敗者もおらず、科学者が真理を探究する姿だけがあったのだ。

きっと渡辺竜王も含めて、みんな科学者なんだろうなー
ということです。科学者同士がお互いの発見について驚いたり
誉めたり、面白がったり。


自称将棋嫌いが梅田さんのコラムを通して、ちょっとだけ見た将棋。
食わず嫌いじゃないけど、中に入っちゃったらきっと面白いのだろう
なという印象を持ちました。入れませんけどね!


以上、楽しいコラムの抜粋と感想メモでした!


抜粋しすぎだというクレームが産経から来ないことを祈るw




■ものぐさ将棋観戦ブログ:名人戦(6/16追記)
当エントリーにリンク頂きました(汗
http://blog.livedoor.jp/shogitygoo/archives/cat_825587.html
しかも過大な評価を頂き、もう「申し訳ありません!」って感じです。
や、やはり将棋をよーく分かっていらっしゃる方の感想は具体的で
(私にはやや難解な部分が…)「そうなのか」と納得します。
実は当エントリーは最後まで読む人は少ないんじゃないか、と思ってましたので、
嫌がる両親に無理やり読ませました(爆)

読んでくださった方がいるだけで幸せです。