あの夏のスイカ

子供の頃からアルプスが大好きだった私は、学生時代、自分の
体力や資質も省みず、南・北アルプス八ヶ岳と、信州の夏山を
縦走しておりました。


所属していたサークルはちょっとだけ体育会系なところがあって、
1年生は体力的に修行の年。
2年生は精神的に修行の年(サブリーダー、先頭を歩く)。
3年生は統括役(リーダー、最後尾を歩く)。
そして4年生はというと、もう就活などで滅多に参加しない、
してもご意見番、最後尾のさらに後ろをマイペースで適当に、
という役割でした。


一度の山行には約40名くらいが参加して、だいたい1パーティに
10名。1年生男子は各パーティに2名は必須。なぜなら
テントを背負わなければならないから。
2年生は主に食糧を、3年生は食器および現地調達の水を。
4年生は荷物のノルマなし。


だからパーティに4年生が入っちゃったところは、4年生の分も
食糧・水を余計に背負わなければならないから、ちょっと貧乏くじ。


私が2年のとき、サブリーダー(先頭を歩く)は男子でしたが、
3年生を補佐するという意味では女子にもサブ的役割がありました。
ペース配分、1年生の状態監視、天候、など。
その上、4年生が入っちゃった、わがままきかなきゃ。。


中房から日本三大急登と言われる合戦尾根を登って燕山荘へ。
軽く燕岳(つばくろだけ)まで散歩をしたら、昼には
喜作新道を通って大天井岳(おてんしょだけ)で一泊。



二日目は槍ヶ岳を右に見ながら東鎌尾根を伝って
ヒュッテ大槍経由で槍岳山荘へ。ここのテン場で昼食。
それから空身で槍ヶ岳へ。


三日目は残雪の槍沢を下って上高地へゴール。


真夏の登山、誰もが汗だくで、水分は欲しくてたまらない。
だけど「山にゴミは残さない」というルールがあり、また
水は1リットル300円という、ガソリン高騰の昨今と比べても
倍以上の高価なものでした。休憩時間に飲めるのは一人二口まで。
食事は乾き物(カロリーメイトとか羊羹とか)。
パスタは厳禁。茹でた湯を捨てるのはもったいないから。
歯磨きも一人一口分の水。唯一、生ゴミになっても影響の少ない
オレンジが、あのとき何より大切でした。


バテバテの2日目の午後。
工学部の4年生で、普段から厳しくて超体育会系だった先輩が
ニコニコ、ザックを持って輪に入ってきました。
「お前ら、おつかれさん」
彼はザックから、でっかいスイカを取り出しました。
ザックの中でごろごろし、たぶんテントより重かったはず。
そんなものが入っているなんて一言も言わず、黙って歩いて
いた先輩が、サクサクと大玉を切り分けて「ほれ!」と配った
のです。先輩は、貧乏神ではありませんでした。


イカ生ゴミというのは、かなり厳しい持ち物です。
先輩はそれも引き受けて、上高地へと下山してきました。
純粋に、私たちを見守ってくれたんだと思いました。
経験上、一番欲しくて、それでいて一番実現不可能なもの。
4年生の先輩だからこそ、出来たことでしょう。


某さま。
イカには、そんな特別な想いがあります。
純粋に「炎天下をお疲れ様、水分補給してください」
もしもう一度、もし近くを通ったとしたら、お返しとか
一切なしに、受け取ってもらえますか?


…すっごい疲れているところへ、不意打ちだったことは
ものすごく反省しています(汗)迷惑でしたらすみません。
もしかして余分な出費とかありました?(゚ д ゚;))))

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