茶碗とお椀と箸の位置

カフェでコーヒーとパンケーキをオーダーしたら、
それらとナイフ・フォークをトレーに乗せて差し出してくれた。


受け取って席に付いてみると、先を左に向けたナイフとフォークは
パンケーキの皿の向こう側にある。
手前にしようと、トレーをひっくり返そうかと考えたが、
そうするとナイフ・フォークは左手で取ることになる。


一度取り上げてしまえば問題にならない、こんな些細なことが気になるのは、
一度テーブルに置かれた食器の位置は動かしてはならない、
そう躾られているから。


フォークなどは皿の手前になるように置いてくれる人は多い。
しかし、セルフサービスに近いカフェのような場所では
位置云々ではなく、必要な物をトレーにまとめて置いた、そんな感じだろう。


親戚の女の子(当時小学6年と3年)とハンバーグを食べに行ったとき、
6年生の子が、私は左利きだからと、テーブルのフォークとナイフを
左右置き換えた。
ここ:「だめだよ、左利きでも、ナイフは右で持つんだよ」
6年:「イヤ。食べ辛い」
3年:「美味しく食べれたら、どっちでも良いじゃん」
ここ:「だめ。戻しなさい」


嫌がる娘たちを、結局は彼女の父親がたしなめた。


父親曰く、彼女たちの母親がテーブルマナーに無頓着らしい。
お茶碗、お椀の位置も、言っても整えてくれないのだそうだ。
どこに在っても、食べれば変わらない、そんなことに煩わされたら
食事が美味しくない、と。


えー。


外食しても、通常はお茶碗は左、汁椀は右。主菜は中央。
それがバラバラにされたら、ほぼ無意識に整える人は多いだろう。


合宿などで自分たちで配膳するとき、外食産業でバイトするとき、
食器の位置のマナーは必須となるだろう。
適当に育てられた彼女たちは、これからきっと、いろんなところで苦労する。
下手すると、それが原因で、縁談がまとまらないことにも
なるかもしれない。


彼女たちの母親という人が、離縁したので、今では親戚ではない。
彼女たちを私が注意することも、もう無いだろう。


会社の食堂で後輩と食事をしたとき、後輩はスプーンですくい切れなかったカレーを、
皿を持ち上げて唇に付け、スプーンでかき寄せながら口に流し入れた。
引いた。
いくら社内とはいえ、一緒に居る私が恥ずかしい。
そんな後輩とは、絶対に外で食事なんてしたくない。


彼女たちも、こんなふうに、友人や同僚たちから避けられてしまうのかもしれない。
「美味しく食べる」というのは、味だけの問題でも、
自分だけの問題でもない。ということ…