終わらない試練

左手の指が、伸びたまま曲がらない。
コップは持てるようになったが、フォークは握れない。
筋肉は肩から繋がっているから、指を曲げるのには、硬くなった腕の筋肉を
柔らかくしなければならない、と聞いていた。


ようやく少し時間がとれて、理学療法士が指をマッサージしてくれた。
人差し指、中指、薬指は親指と触れるくらいに曲がった。


しかし、理学療法士は小指には触れようとしなかったから、
小指の関節が曲がらない、と伝えた。
手のひらを押すようにして小指の筋肉を引っ張ると、付け根と第一関節は曲がった。
「こんなに曲がるよ」と言うように、理学療法士は私の目を見た。


でも、第二関節はまったく曲がっていない。突っ張るように、そこだけピンとしてる。


そして知った。
この関節がちゃんと動くようになるのは、とても難しいと。
フォークも、この指だけは握れない、そして…
私はもう二度と、上手に楽器を弾けないということを。


ピアノの運指訓練のスコアを買ったばかりだった。
買ってすぐに肩が腫れたから、一曲もまともに練習していなかった。
もう、このスコアを、こなすことは出来ない。


夢は壊さないと、信じていたのに。


4月まで指は曲げられた。しかし、どんどん硬くなって、曲がらなくなった。
リハビリに通うはずだったのに、産業医
「通院も欠勤としてカウントする」と言ったから、病院に行けなかった。
通院は欠勤にしない、そういう制度であることを、最近会社の人事部門から聞いた。
産業医がカウントすると言っていたと伝えると、人事部門は
「どうしてそんなこと言ったんだろう」と首を傾げた。


この会社に、この産業医さえ居なければ、私の指は
動かない、なんてことにはならなかったのかもしれない。
会社に務めるよりも、もっともっと長く、私は生活しなければならないのに。
会社に小指を捧げてしまったのか? 産業医のせいで?


いつまで続くのだろう、この試練は。。。